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最高裁判所第二小法廷 昭和24年(新つ)18号 決定

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件特別抗告の理由は別紙特別抗告申立書及び補先説明書記載のとおりである。

記録を調べて見るに、前記被告事件に関する原審第一回公判期日に被告人木谷久一外四名の弁護人戸田善一郎から一九四七年(昭和二二年)九月一八日附「経済安定本部の指定リスト掲載の会社の制限」と題する連合国総司令部の覚書(以下九・一八覚書と略称する。)は、右総司令部経済科学局の一課長の発したもので昭和二一年勅令第三一一号第二条第三項にいわゆる連合国最高司令官等の発する指定又は命令にあたらないばかりでなく、九・一八覚書はその対象を社団(アソシエーション)においているから、前記勅令違反として個人を起訴し、本案について審理するは憲法三一条の保障する罪刑法定主義に反するとの理由で起訴の取消又は起訴状の却下を求めたのに対し、原審は第二回公判期日において右請求を採用しない旨の決定を宣し、その理由として九・一八覚書は前記勅令にいわゆる連合国最高司令官の指令にあたり、右覚書にいわゆる社団又は会社には之を構成する個人をも包含する旨説示したので抗告人等は右決定理由の後段を捉えて斬くては訴訟条件たる当時者能力なき被告人等を処罰の対象とすることになり、憲法三一条の保障する罪刑法定主義に反するとして本件特別抗告を申し立てるに至ったものであることがわかる。

しかし、本件被告人等が本件事案について昭和二一年勅令第三一一号違反として処罰の対象となるか否かということは所論の如く当事者能力の有無の問題ではなくして、それは単に有罪判決の条件にすぎないところの被告人たるの適格ないしは当事者適格の有無の問題に外ならない。従って、原決定におけるが如くこの点に関し事件に対する終局裁判前に特に判断が示された場合においては(終局裁判前にかかる実体に関する判断を示すことの適否は兎も角として)、終局裁判を待って之に対する上訴において、かかる判断に対しても不服を申し立てることができるものと解するを相当とするから、之に対しては独立して特別抗告を申し立てることができないものと解すべきである。(なお、わが刑訴法の下においては裁判所が起訴を取消し、あるいは起訴状を却下するが如きことは認められていないのであるから、原決定がかかる請求を棄却したことは固より当然である。本件申立書には原審においては公訴棄却の裁判を求めたのであると言い換えているけれども、所論の如き理由に基く以上、原審においても無罪の実体的裁判を求めるべきであって、公訴棄却の如き形式的裁判を求めるべきでないことはいうまでもない。)

以上の次第であるから、本件抗告の申立は適法なものとは認められない。

よって刑訴四三四条四二六条に従い、裁判官全員一致の意見を以って、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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